悲しい歌も明るく歌う?
こんにちは、川浪です。
音楽を演奏する上で、感情を込めるというのは、とても重要なポイントですよね。
音楽を演奏するということは、運動や体操ではなく、表現です。
ただ、指が早く回ればいいとか、高い音が出ればいい、という話ではありません。
先日、レッスンに来られている声楽の方から、「この歌は悲しい歌なのですが、明るい気分で歌うように指示されている」という話を聞きました。
理由を尋ねてみると「悲しい気分で歌うと、どうしても声が通らなくなってしまうから」というのです。
これを聞いて、どう思われますか?
僕の考えは「悲しい歌を明るい気分で歌う」ということ自体は、とくに否定も肯定もしません。
どういう感情で歌うかは、その曲を通して、何を表現したいのか、ということによって変わってきますからね。
場合によっては、悲しい歌を明るい気分で歌うこともあれば、その逆もあるでしょう。
しかし「声が通らなくなるから」というのが理由だとしたら、それは良くないでしょう。
確かに、明るい気分の時と、悲しいときでは、身体の感じも違います。
ですが、本当は悲しい感情を込めたいのに、明るい気分で歌っていたら、どう考えてもミスマッチです。
聴いてる人も、なんだかチグハグに感じるでしょうね。
じゃあ、どうすればいいのか、考えてみましょう。
そもそも、悲しい気分になると、なぜ声が通らなくなるのでしょうか。
簡単に言えば、明るい気分のときとは、声の出し方が違うからです。
いつもお伝えしている通り、意識、感情、思考に対して、身体は反応します。
例えば、悲しい気分になると、それにともなって、発声に必要のない緊張をしてしまったり、発声に必要な呼吸が上手く行われなかったり、ということが起こってしまいます。
これに対してレッスンでお伝えしているのは、気分を変えるのではなく、身体の反応を変える、ということです。
悲しい気分は感じていいのですが、それに対して、身体を緊張させたり、本来やるべき呼吸を行わなかったり、という反応をしなければよいのです。
それは可能なのか、という疑問もあるかと思いますが、もちろん可能です。
ちょっと違う例になりますが、アレクサンダーテクニークは、音楽家だけでなく、役者の方も取り入れています。
(アレクサンダー氏自身も元々役者です)
例えば、役者が舞台で悲しい演技をする時に、声が出なくなるからと言って、明るい気分で演技するでしょうか。
悲しい気分を表現しつつも、観客に聞こえるような声を出す必要がありますよね。
こういう場合にもアレクサンダーテクニークは役に立つ、ということです。
もちろん、歌も同じですし、歌に限らず、どの楽器の表現でも、すべて同じですね。
というわけで、感情か、身体か、どちらを優先させるかで迷った場合は、迷うことなく感情を優先させてください。
その感情を込めつつ、演奏を損なわないということは、身体の使い方を学ぶことで実現できますので。