演奏に「脱力」は必要か?
こんにちは、川浪です。
「脱力しましょう」
音楽家なら、誰でも言われたことがある、この言葉。
僕のレッスンにも「うまく脱力できないんです」という悩みをお持ちの方が、たくさんいらっしゃいます。
しかし、僕はレッスンで「脱力」という言葉を使うことは、ありません。
というわけで、今回は「脱力」について考えてみたいと思います。
・脱力というが、力は必要
まず、最初に考えてほしいことは、脱力という言葉に、どんなイメージをもっているか、ということです。
おそらく、ぶらんぶらん、あるいは、だるんだるん、というイメージですよね。
これが、演奏に適した状態かと言われると、本当にそうなのか疑問に思いませんか?
脱力を、文字通り理解すると、「力がぬけている」ということです。
完全に力がぬけていたら、それは身体のコントロールを失っている状態です。
その状態で、音楽の演奏という、複雑な動作をこなすことができるわけありません。
実際のところ、演奏するためには、指や腕を動かしたり、息を吐いたり、といった動作が必要です。
これらはすべて、筋肉による活動です。
つまり、演奏するためには力を使う必要があります。
完全に力がぬけている状態では、演奏どころか、あらゆる活動を行うことができません。
当たり前のようですが、まずはこのことをしっかり確認しておいてください。
脱力していたら、演奏することはできません。
・なぜ「脱力しましょう」と言われるのか
では、なぜみんな「脱力しましょう」というのでしょうか。
さきほど、演奏には筋肉活動が必要、という話をしました。
どのような動きが必要かは、楽器によってことなります。
ピアノであれば、指で鍵盤を押す必要があります。
管楽器であれば、息を吐くことや、アンブシュアのコントロール、キーの操作、など。
弦楽器であれば、左手で弦を押さえて、右手で弦を弾くか、弓を動かす必要がありますよね。
それと同時に、実際に演奏しているときには、それ以外の不必要な動作もたくさんしています。
つまり、脱力の真意とは、演奏に必要のない力は手放しましょう、ということです。
ところが「じゃあ、必要のない力を手放そう!」と思っても、なかなかうまくいきません。
いったい、なぜうまく手放すことができないのか。
その理由を考える前に、そもそもなぜ不必要なことをしているのか、ということを考えてみましょう。
・なぜ不必要なことをしてしまうのか
その答えを、一言でいうと、それが必要だと思っているからです。
もう少し詳しく説明します。
演奏するときに、身体には次のようなことが起こっています。
①演奏しようと思う
↓
②そのために必要な指令を、脳から身体に送る
↓
③その結果、身体が動く
つまり、結果的には、不必要であっても、自分の頭の中では、必要なこととしてプログラムされているわけです。
さて、ここで不必要なことをやめようとすると、何が起こるでしょうか。
この不必要なことは、頭の中では演奏に必要なこととして認識しています。
それをやめるということは、すなわち演奏できない、ということになります。
こうして、脱力しようと思っても、うまくいかない、という悪循環におちいってしまうのです。
・不必要なことを手放すプロセス
では、いったい演奏を改善するためには、どのようなプロセスをたどればよいでしょうか。
まずは、演奏するにあたって、何か不必要なことをしていないか、観察してください。
じっくり観察すれば「ここに力がはいっているなぁ」ということに気づけるでしょう。
それが不必要だった場合に、それをやめようとしても、うまくいかないのは、先ほど説明したとおりです。
そうではなく、本当に必要なことは何なのか、を明確にすることが重要です。
先ほどの
①演奏しようと思う
↓
②そのために必要な指令を、脳から身体に送る
↓
③その結果、身体が動く
の②を、修正する必要があるということです。
そうすることで、不必要なことを手放せるようになります。
この考え方は、これまで数多くの音楽家にレッスンをしてきて、効果実証済みです。
「脱力」と言われた時に、単に力をぬこう、と考えるのではなく、何が不必要で、何が必要かを明確にする、ということを意識してみてください。
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